Casting:Turbo の話

ホンダF1ターボ
( F1用。1.5L相等のEx.側と1000馬力相等のIn.側の大きさの差!)


 鋳物の話題、今回はターボについて。

 鋳物屋時代、レース用ターボの吸気(給気)側ハウジングは何種類か作りました。
(排気側は超高温ゆえ素材は鋳鉄、軽合金屋の出番はありません)
 そして全てはわざわざ市販(標準)品とは異なる、専用のハウジングを作ろうという、いわゆるワークス・パーツです。凝ったものばかりでした。

 とりあえずターボ一般について解説を。
 ご存じの通りターボ・チャージャーとは、排気ガスをまとめてタービン・ブレード(羽根≒風車w)に当て回転力を得、タービンと同軸のコンプレッサー(過給器≒これも風車w)を回し吸気を圧縮してパワーアップをはかるデバイスです。
 いくら排気ガスを、と言っても例えばマフラーを通り過ぎた、素手で触れるくらいの排気ガスをブレードに当ててもそれでは本当に風車程度の力しか生みません。燃焼室を出たばかり(=爆発直後)の高温高圧(高エネルギー状態)の排気を最小限の空間(排気タービン・ハウジング)内でブレードに当てることによって強い回転力が得られるのです。
turbin.jpg 
(矢印がEx.ハウジングとブレードの接点。同軸の上側がIn.)
 昔、知人のストリートカーチューナー氏に聞いた説明・・・
「熱っつい排ガスがハウジングとブレードに仕切られた狭い空間の中に閉じ込められ、もう一回爆発する、イメージ・・・」
正に腑にストンと落ちる感じ、でした。
 まだ膨張しようとする力が残っている高エネルギー状態の排ガスを当てて強い回転力を得る、ということです。
 そのために排気タービン・ハウジングはなるべくエンジンに近づけなければなりません。場合によっては
「集合部まで各気筒等長」
という基本を外してでも可能な限りEx.マニフォールド短くするのがターボのセオリーなのです。

 今やカウンターフローのエンジンはほぼ絶滅し(笑)吸気側は、排気側から見ればシリンダーヘッドを挟んで向こう側にあります。
 ターボ・チャージャーは同軸である構造上、給気コンプレッサー・ハウジングとタービン・ハウジングは隣接しています。ゆえに圧縮された空気はヘッドの反対側まで運ばれることになります。
 この距離が長ければエンジンの反応が悪化するのはご理解頂けるでしょう。現在ではこの移動距離間に給気温を下げるインター・クーラーを設けるようになっているので、その「必要悪」感は相当減じましたが(笑)それでも短いに越したことはありません。
  Ex.ポート直下に最適化されたターボ。当然コンプレッサーもすぐ横にあり、そこから出た給気はヘッドを跨ぐべく(インター・クーラーを置く位置にも寄りますが)その通路は、強く曲げられます。
adopter.jpg 
(こんな感じ)
 この構造上不可欠な「曲げ」による給気管の「遠回り」を少しでも解消しようとしたのがTRD、JGTC用スープラのハウジング・コンプレッサ(部品図名称)なのです。
mag - コピー (3)_1
 (口が最初から曲がって・・・)
 ターボ・レスポンスの改善には効果があるとはいえ、わざわざそのためだけに新しい部品をイチから起こす(!)流石
「金に糸目はつけない」
ワークス・パーツ、といったところでしょう。当然材質はマグネシウム。通常のアルミに比べ軽い分、やや耐熱性に劣るMg.です。排気に近く熱的に厳しい条件を考慮して通常のMg.(AZ91)より耐熱性の高い、当然より高価(AZ91の数倍!)なZE41を選んでいます。
 形状が違うためコンプレッサーのスクロール(断面積変化)形状も標準品とは異なる独自のもので・・・
 いかに贅沢なものかお解り頂けたでしょうか?

 これは鋳造自体も難物でした。
 スクロール部分の「中子」、細くなった部分が太い部分に融合しているのですが・・・
 そこが折れてしまうのです。
 これを防ぐには中子に、補強となるリング状の芯金(しんがね=針金)を入れればよいのです。しかし砂型から鋳物を取り出す際、中子を形作っている砂は崩せるものの芯金はそのまま鋳物内部に残ってしまいます。
「どうやってそれを取り出すか?」
これを解決したのは自分のアイデア、でした(!)
 芯金の両端を小さいフック状に曲げ、外せるようにしたのです。このスペシャル芯金なくしてこの鋳物は作れなかった、筈です。

 スープラのエンジン全景写真がオートスポーツにありました。
 右下、口が前方を向いているのがハウジング・コンプレッサ。
 等長とは思えない、集合部までが極端に短いEx.マニフォールド。
 前稿で取り上げたカバー・シリンダ・ヘッドも見えます。
supra.jpg
左上、Al.製プレナム・チャンバも作りました。

 ゴール目前でチャンピオンを逃したカローラWRカー
WRcar.jpg
TMG(TTE)で制作されたこのラリーカーのターボも作りました。
mag - コピー (2)_1
(首は曲がっていません)
 これは数が出ました。ドイツに沢山送りました。
 ワークスカーは当初(GTスープラよりずっと少ない)2台でしたが・・・WRCの過酷さを物語ります。設計年次はスープラ以前でもあり、材質はAZ91でした。
 またこれはちょくちょく設計変更(せっぺん)する訳にはいかない、FIAのホロモゲーション部品でもありました。

 しかし前述スープラ用コンプレッサのスクロール形状の結果が良かったので・・・
「何とかその新形状を導入したい」
とトヨタは考えました。
 加えて同じ頃同車用コンプレッサは思いの外、数が出るのが問題となっていました。車体の方がより重要なのでしょう(?)それに回せる予算はさほど潤沢ではないということで、新形状ハウジング・コンプレッサはコストダウンのためAl.で吹くことになりました。もちろん木型もキャリーオーバー。変更は中子のみです。
 しかしこれはホモロゲーション部品。申告なしに変更はできません。内部形状だけなら設変は判らないのですが、材質を変えたがため外観形状は同じでも「色」が変わってしまうのです。

 Mg.は吹いた直後はAl.と同じ銀白色。見た目はほとんど見分けがつきません。しかしMg.はそのままではすぐに(場合によっては一晩で)白い粉を吹いてしまうほど酸化し易く、それを防ぐためMg.鋳物は例外なく仕上げ後すぐに溶液に漬け防錆処理を施されます。溶液の調合によって色合いは微妙に変わりますが、その表面処理によってMg.の表面は褐色に染まります。
 そう、一般にマグネシウム色として認知されているあの「茶褐色」は実は防錆処理の色なのです。

 WRCのホモロゲーションは見た目の変化は見逃しません。そこでTRDの持ちかけてきた注文は
「アルミをマグっぽい色にできるか?」
でした。コストダウンのためのAl.化です。納品状態でMg.版より安価でなければなりません。さほどコストはかけられない、といった訳で・・・
 懇意の化学工場に相談です。
「アルミをマグっぽい色にできますか?」

 幸いその工場の技術力は大したもので何度かやり取りの後、希望通りに調色したアルマイト処理がリーズナブルなコストで可能となりました。

 こうしてより高性能になった一方、結構重くはなったインチキ(笑)ホモロゲ部品たる新型Al.ハウジング・コンプレッサは無事海を渡ったのでした。
wrc.jpg
(これはどちらか、判りませんねえ・・・w)

 今回も長くなりました。以上で<(_ _)>

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  1. 2016/08/07(日) 14:00:52|
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