5-2) De Tomaso Mangusta

 
(sold)
 自転車の話、もう少し書き足りないのですが自転車はあんまり・・・という方への心配りとして(笑)今稿はクルマの、それもスーパーカーの話を。

 当ブログで最初にアップした自分のイラスト、オレンジの
mangsata.jpg
デ・トマゾ・マングスタ
 ご記憶でしょうか?
 そこでも書いた通り同車、自分にとってベストスタイリングの一台です。単にベストと言わず、わざわざ「スタイリング」と断っているのは、乗ったことはもちろん触れたことすらないからですが。

 ジウジアーロ御大の作品としてはもちろん、スーパーカーとしてもそうですが、単純に自動車のかたちとして好きです。
 御大の作品らしい全体のマスのバランスの良さとか「筋肉の存在」を感じさせるような(=決して筋肉モリモリではない) 面の張り・・・といった形状面は当然ですが、その最大の魅力は?というと、スーパーカーとしては異例な
「自動車らしさ」にある
と思っています。
 明確なフロントグリルを持ち(=Fラジエーター)当時御大の得意技であった、通常のリトラクタブルではない「半分隠された」ヘッドライト・・・そこには低く上下に薄くも確かに「顔」があります。
 その「顔」を感じさせるるところが自動車らしさの理由でしょう。
 いかにもスーパーカー!という造形に比して
くんたっち
あんまり「尖っていない」ところがよい、ということです。

 スタイリングの話はこれ位にして、実際のクルマとしてはどうなのか?
 我国において同車は、現在においても謎のクルマのひとつでしょう。自分のつたない情報網では国内には赤と白の個体の2台のみ、です。

 気鋭の自動車ジャーナリスト沢村慎太朗氏が800頁の大著

「スーパーカー誕生」
を著すまで、カタログデータ以外では・・・ジウジアーロ・デザインであること、先代にして同社初の市販ミドシップ
valle.png
 「ヴァッレルンガ」
と同様の、エラン(というよりヨーロッパか) とよく似た
chassiss.png 
車体構造であること、
mangusta - コピー  
そして構造自体は違うものの、後の
pant.png
「パンテーラ」の礎となったこと、そのネーミングからコブラ
cobra.png 
を意識していること、そして剛性不足からか、走行中アライメントが変位する(?、PF先生のインプレッション)・・・同車に関する情報はこんなものでした。

 ほかに有力な(=リアルな)同車情報としてコーギー製、マングスタのミニカーがあります。
chassis_20130609102757.png
 コーギーの企画担当者は取材先(恐らくファクトリー)で同車のバックボーンにエンジンと足まわりが組まれた状態のもの即ち「ベアシャシー」
chassi.png kogi.jpg  
(押して移動できるのでローリングシャシーとも)
を見たはずです。そういう状態のストリートカーは初めて見たのでしょう、非常に興味をひかれた担当者氏はその状態を再現して商品化することを決意したのでした・・・
 こんなストーリーが導き出せるようなミニカー、なんと車体内部にバックボーンシャシーが仕込まれ、ボディが取り外せるギミック!生産化に当たってのデフォルメはあったでしょうが、きっとほぼこのままなんだろうな、と思わせるリアリティがあります。

 さて 2-1) ミッレ・ミリア’89 でお話しした通り広尾へ自作を携えお邪魔したとき、件のオレンジマングスタを見てティペットさん開口一番
『Oh!Bad car!』
 え?悪い車?・・・マングスタ・ラヴァーとしては聞き捨てなりません。
「どういうこと?こんなに美しい車なのに」
『Good styling, (but) Bad car・・・自分の友人はこの車を工場まで買いに行き、乗り出してすぐに返した・・・(後半部分も英語です)』
 当時の自分の語学力ではここまで聞き取るのが精一杯。いったいその車のどこがどう悪かったのか、突っ込んだ話は残念ながらできませんでした。

 それではマングスタのどこが悪かったのか、推理してみましょう。

 実車は昔、外車屋のウィンドウ越しに、それも深夜に(笑)見たことがあるだけなので類推するほかありませんが。
 しかしかつては外車、それもスーパーカーの話なんぞは、現実には触れようのないわば「ファンタジーの世界」だったので、こういった自分勝手な推理も楽しみのウチ、むしろ主流だった(?)という感も・・・。

 まずそのご友人氏、どこの方かは存じませんが、たとえイタリア在住であっても、わざわざファクトリーまで引き取りに行くというのは、相当入れ込んで(購入前に同車を気に入って)いたのは間違いないでしょう。当時のデ・トマゾの販売網の弱さを勘案しても、です。
 というのは当時最新のスーパーカーを新車で買おう!という人の財力なら、納車を完全人任せも無理のないことだったはずですから。

 次に問題の核心、何が悪かったのか?です。

 乗り出してすぐ、とのことなのでそれは瞬間的直感的に理解できる
「不具合」のはずです。
 ということでまず第一に考えられるのは視覚的不具合です。
外装の視覚的不具合というのは新車では流石にあり得ないでしょう(笑)
 すると室内、と考えると・・・例えば内装の建て付けが非常に悪い。走っているうちに何かが脱落するとか何かが真っ直ぐ装置されていないとか最初から縫製がほつれているとか。
 これらは、あったかもしれませんが(笑)
車自体の返品にまでは発展しないのではないでしょうか?

 第二は、乗って感じる、ドライブフィールですが・・・室内つながりで考えられるのは排気もしくはガソリン臭です。 実際沢村氏もその著書の中で同門先代であるヴァッレルンガの項でガソリン臭について言及しています。可能性はあるかも。しかし
「この車、ガソリン臭くて走ってられない、返す!」
あるかもしれませんが、「直せ!」が先にくるような気がします。
 エアコンが全然効かない・・・等も同様でしょう。
 実際Fラジエーターゆえ「暑くて乗ってられない!」ってのはあったかもしれませんが。

 とすると第三は本当の意味でのドライブフィール、我々が「インプレッション」と称する、動力性能、操縦性、乗り心地そしていわゆる「音・振」の評価(のどれか)があまりに低かった、ということになります。

 どんな評価?乗り心地が悪い?
 経験ある方もいるかと思いますが、新車を買おう!と舞い上がっているときは意外に結構酷い瑕疵も受け入れられてしまうものです(笑)乗り心地は問題にならないと思います。

 動力性能?それまでの氏の車歴によっては「速い」と感じなかった可能性はありますが同車、遅くはないでしょう。息つき等調整不良は考えにくいですし、それこそ「直せ」でしょう。

 では音・振?これは可能性があります。
 というのもやはり沢村氏の著書が明らかにしたヴァッレルンガのエンジンマウント方法・・・永く信じられてきたシャシー剛結ではなく弾性マウントだった・・・この「ヴァッレルンガの誤解」はその振動の荒々しさ(とバックボーンシャシーのイメージ)から生まれたものと自分は想像します。

 もし同様の尺度、方法でマングスタが設計されていたら
(可能性は非常に高いです)・・・相当荒々しい音と振動がズカズカ踏み込んでくる感じだったら・・・遮音は「後付け」では無理です。
「こりゃ乗ってられない」
ということはあり得ます。しかしこれも舞い上がっていればどうか・・・

 そこで注目すべきは前述「ボディ剛性」です。
 PF先生は基本的にその車の美点を挙げ、あまり批判はしません。
 脱線しますが・・・映画評論家の故淀川長治氏は「映画を褒めるのが自分の仕事」とつまらない映画でも決して貶さなかったそうです。国やジャンルは違えど先生にも同様のものを感じます。
 その先生が言及する剛性の問題は無視できません。
 それが実際の剛性ではなく、シャシーとボディの締結等に由来する「剛性感」であっても、です。むしろそちらの方が可能性が高く、しかも深刻かもしれません。
 再度「スーパーカー誕生」より剛性不足の著例としてフェラーリ348項を引用すると・・・

 その極初期型に限って「高速高負荷時直進安定性不足」「危ない」「すぐスピンする」という風評は真実でそれはサス取付部等の局部剛性の不足に起因する・・・
 平たく言うと「怖い」ということです。

 その初期型348と同種の「恐怖感」「不安感」こそ車を即時返品するに足る唯一の理由ではなかったか、と自分は考えます。
「こんなのおっかなくて乗ってられない!」
ということです。
 特にこの「高速高負荷時云々」は正にPF先生のインプレッション「アライメント・・・」のことを指しているように思います。

 設計上、バックボーンの断面積不足といったシャシー自体、もしくはサスの取付部あるいはサスアーム自体の剛性不足が原因だったのではないでしょうか。

 ではなぜそうなったのか?
 まず第一の理由は設計者(「天才」ウンベルト`チリッロ′デル・ヴァッキオ
たった一人ですべて!)の高性能豪華ミドエンジンGTの経験不足ですが、
これは致し方ないでしょう、その経験者など当時世界中どこにもいなかったのですから。

 第二の理由は、基本設計にはさほど問題なかったはずなのに、市販車として成立するまでに加えられた度重なる設計変更に帰せられると思います。それらはすべて剛性的にはマイナス方向で行われたのです。

 マングスタのシャシーはヴァッレルンガの拡大版ですが直接のベースはデ・トマゾのレーシングカー
701.png
「70P」。
そのアルミ製バックボーンを市販化のために鋼板製に。これが最初の変更です。剛性は重量との兼ね合いがあるもののこの変更は剛性自体への影響は軽微だったと推定されます。
 次に、イソ/ヴィッザリーニ向けにジウジアーロ御大が用意していたミドエンジンGTのボディ(これが原初のマングスタ・スタイリングなのです)
とマッチさせるためホイールベースが138mm延長されました。
 これはサスアーム等を新たに起すとは考えにくくバックボーン部分で行われたことでしょう。これはシャシー剛性にはかなり影響があったはず、もちろん弱くなる方向です。
 ここまでは、クルマに対しては変更の部類、原初の70P
70.png
(目立った戦績はないものの、まがりなりにもレーシングカー)
から大きく逸脱することはなかったかと思います。
 しかし70Pは車重700㎏です。それに対応した各部剛性(とそのバランス)の車体の上に鉄製ボディと豪華装備の架装で1300㎏になんなんとするマングスタ、相当の構造変更が施されなければ剛性不足は目に見えています。
p70.png
ところが数少ない資料、画像等を見るとあまり変わっているようには見えない・・・。

 700㎏ならちゃんと走るクルマに各部に分散とはいえ600㎏積んだら・・・
マングスタの車体剛性不足はまず間違いない、という結論になります。

「飛ばすとどこかへ行きそうになる、怖いクルマだった」が真実なのでしょう。

 これを裏付ける物証とするには弱いのですが・・・
racecar.png  magust.png
(ただのロールバーかも・・・)
 後年(現在)のマングスタ・レーサーにはすべからく市販型にはないRクォーター部補強材が見られます。
 そして純粋な剛性ではなく「剛性感」が問題だったとすると車体(鉄製ボディ)とシャシーの締結にも原因がありそうです。
 というのもロータス・エランの例ですが、シャシーと足回りはほぼ完璧のはずなのに
「ギシギシ、ユラユラ」
の個体に乗ったことがあります。これはすべてシャシーとボディに挟まれるラバーブッシュの劣化が原因と知って、ショックを受けたことがあるのです。
「ゴムだけでこんなに変わっちゃうんだ・・・」
 軽いFRPのエランと違ってマングスタは重い鉄ボディ、そうなる可能性は非常に高いでしょう。その辺りはどうなっているか、是非実車見聞してみたいものです!

 もしマングスタ、その存在、所在もしくはオーナーをご存知の方(もちろんご本人でも!)いらっしゃいましたら、左のメールフォームより(非公開です)
ご連絡いただけると大変嬉しいです。

 次稿は「奇才」ウンベルト`チリッロ′デル・ヴァッキオについて書いてみたいと思っています。

 トップ画像はこれまた全く関係のない(少しあるかな!)下書き中のミウラでした。

・・・とほぼ沢村慎太朗氏の大著「スーパーカー誕生」を下敷きにした駄文でございました。
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  1. 2013/06/09(日) 20:58:29|
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