マグネシウムの話

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 先日、某自転車(↑)気鋭のビルダー氏と会食の機会がありました。

 渋谷の怪しいバーでの会話の中、冶金(=やきん)の話が思いのほか受けたのに気をよくして(笑)ステップバン・トラブルの話が途中ですが・・・
今稿マグネシウムの話などをひとつ。

 少数そして高価ゆえ、さほど普及していないにもかかわらずホイール素材として誰もが知るマグネシウム。ある種の「憧憬」をもって語られる「高級」な
マグネシウムホイール
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(The Wheel of Lamborghini Miura !cast by Campagnolo?)

 に対して普及品といえなくもない「アルミホイール」ですが、その世間への
(アルミ、で通じる程の!)浸透っ振りは驚くべきレベル、マグネシウムの名のメジャー化に一役買っていると思います。
 
 あるいは「ブロンズ→像」とか「桐→箪笥」みたいなものでしょうか(笑)

 今回はその名に比して実態はあまり知られていない「謎の金属」マグネシウムについて元プロの自分がお話しましょう。
 元プロ?実は自分、本屋になる前はマグネシウム鋳造業に従事していたのです。

 マグネシウム、元素記号Mg、実用金属で最も軽い比重1.74。

 その重さは軽量金属の代表アルミのおよそ65%(!)と、超軽量金属と言えるでしょう。マグネシウムとアルミニウム、その機械的性質は近いものがあるため、アルミで形作れるものはほとんどマグネシウムに置き換えることが可能です。ただしコストは単純に地金の価格差だけで数倍から合金の種類によっては十倍以上!そういう意味で「高級」は間違いありません。
 ただ置き換えるだけで35%の軽量化は素晴らしいとは言えますが、元々軽いアルミですから実際の軽量化代は極く僅か、部品によっては数グラム(!)ということもままあり、コストパフォーマンスには疑問符が付く場合も。
 それゆえ一般的には軽量化目的の単純置換は行われず、

 新規部品製作の際、選択肢の一つとして超軽量素材マグネシウムがある

 と言えます。新規ならば、一般的に高価な木型製作費等付帯費用は同じ、単純に素材価格差のみで軽量化できるということになるのです。
 いきおいマグネシウムは設計変更(=セッペン)や新規製作(それも少ロット)の多いレーシングパーツ企画時に、その検討の俎上に上がることが多くなります。ゆえにマグネシウムは
「レース専用素材」
と誤解されることが多いのもある意味当然かもしれません。

 その軽さ以外にマグネシウムの優れた点は・・・
 まず比強度(=重さと強さのバランス)そして切削性(=削り易い)加えて振動吸収性があります。

 最初の比強度。
 これがマグネシウム合金の存在理由と言っていいと思います。
「軽くて強い」ということです。

 次の切削性。
 手ヤスリをかけるだけで体感できるレベルなのですが、
「切粉離れが良い」
というか材料が粘らない、軽く削れる、といったことです。これは機械加工の際ももちろん同様で「送り」量を大きく設定できる、ということになります。そしてそれは省力化と加工時間短縮、即ちコストダウンに直結するのです。この切削性の良さは
「加工面の荒れの少なさ」
をも意味し
「鏡面が容易に得られる」
というマグネシウムのもうひとつの顕著な特徴につながるのです。これも実際にやってみるとすぐにわかるのですが・・・「磨き」のためのバフ掛けの際、アルミに比べればその手間は体感的にはざっくり半分(!)サンドペーパー掛けでもあっという間にピカピカになります。
 この鏡面は加熱溶解中も同様で・・・酸素が遮断された環境下でしか見ることができませんが・・・その溶融金属(溶湯=ようとう、または単に湯=ゆ、と呼びます)の表面は正に鏡面(それゆえ中国語でマグネシウムを金へんに美と書くのだそうです)それはちょうど映画ターミネーターの敵役
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「液体金属人間」のようです(笑)
 そして振動吸収性。
 全ての合金ではないもののある種の(=高価な)マグネシウムには振動吸収性があります。その分子構造上「滑り振動」を受け入れやすく、振動を熱に変えるのです。ところが最も一般的なマグネシウム合金であるAZ91(アルミ9%亜鉛1%含有)は残念ながら特筆すべき制振性は持っていません。とはいうものの・・・
 最近はあまり聞かなくなりましたが、自転車フレーム素材談義で
「アルミは振動吸収性が良い」
という「意見」がありました。アルミがそうだとすれば、それに比してマグネシウムは例えAZ91だとしても制振性で確実に勝るでしょう。

 続いてマグネシウムの弱点について・・・
 実はこれ、価格を含め結構たくさんあります。しかしその理由のほとんどはマグネシウムの二つの特性、

 酸化しやすい、展性に乏しい(=延びにくい)

 に集約されるのです。
 まず酸化の件ですが・・・
 アルミの腐蝕(=酸化物)はご存知でしょうか?海岸を走ったオートバイのFフォークとかに現れる(笑)白く粉状に盛り上がるヤツです。マグネシウムの腐蝕も見た目はほぼ同様、その酸化しやすさからもっと短期間に進行します。
 「酸化」とは、酸素と結び付くということ。マグネシウムは、場合によっては同じ環境下にある別の(酸化した)金属から、その酸素を奪ってまでも酸化しようとします。別に意志がある訳ではありませんが(笑)そう表現したくなるほど「活性」があるのです。
 酸素を奪うことを「還元」と言います。この性質を踏まえ船舶の腐蝕防止のためマグネシウム片を船体に貼っておく(←マグネシウムが船体の代わりに酸化する)そんな使用法もあるくらいです。車の世界でも昔から、車体に微弱な電流を与え防錆する装置がありますが、あれも似た原理です。
 電流?そう化学の世界では酸素のやりとりの前段階として

 電子の行き来

 があるのです。実際いくら活性の高いマグネシウムといえどその粉末を他の酸化物とただ混ぜてシェイクしても化学変化は起きません。ただし水に浸せば話は別です。水の分子との間で電子のやりとりが起こり、全てではなくとも「いつでもオッケーよ♡」といわんばかりの「尻軽状態」に変わるものが現れるのです(笑)これを「イオン化」と言います。

 「イオン化傾向」はご存知でしょうか?元素を「電子の離れ易さ」の順に並べたものです。
「貸そうか  な、 ま  あ 当  て に  す  な、  酷   す ぎる、借金  」 
  K   Ca Na Mg Al Zn Fe Ni Sn Pb H Cu Hg Ag  Pt Au

 聞いたことがあるでしょう(笑)これは言い替えると「水への溶け易さ」と考えてもらってよいと思います。もちろんどれもが砂糖のように溶けるわけではありませんが(笑)マグネシウムは実用金属中、最も溶け易いことがおわかりいただけるでしょう。

 酸などの溶液を仲立ちとしてイオン化傾向に差(=電位差)のある二つの金属板(=電極)の間に電子の流れを起こさせる、それが電池です。電位差が大きいほど強い電池になります。するとマグネシウムは最高の陽電極になり得るポテンシャルを持っていることになります。それほどの活性を持つということは言い替えれば「不安定」ということ。地球上に酸素がある限りマグネシウムは酸化しようとします。逆に言えばマグネシウムは、

 純粋状態では存在し得ず酸化マグネシウムとなってはじめて「安定」する

 のです。そしてその安定した酸化マグネシウム(≒豆腐のにがり)は液体として、海水に大量に含まれてもいます。実はマグネシウムは地球上においてはありふれた元素(=8番目に多い)特に稀少な金属ではないのです。

 ではなぜ高価なのか?その抽出にコストがかかるのです。

 他の酸化物から酸素を奪ってしまうような活性を持つ金属を再び還元するには高エネルギーが必要なのはご理解いただけるでしょう。
 前述の電池、使い捨てのものを一次、充電して繰り返し使えるものを二次電池といいますが、マグネシウム電極を使った二次電池の開発が困難な理由がこの高エネルギーにあります。充電程度のエネルギーでは還元できないのです。

その一次電池もようやく実用化の途についたところですが・・・

 実は数年前「マグネシウム二次電池開発ベンチャー」に誘われたことがあります。色々調べ上記の理由で「眉唾」と判断、さらに調査すると・・・怪しい「謎の触媒」の存在が明らかになったところで、乗りませんでした。

 長~くしかも化学(chemistry)の話に終始してしまいました。「相性の」悪かった方もいるかと・・・(笑)「展性」の話もまだですが、製品主体の話になればもう少し取っつきやすく・・・それでは、to be continuedということで。

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  1. 2014/01/30(木) 20:48:47|
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