マグネシウムの話:その4

国内レース 
 
JGTCはご存知でしょうか。
 全日本GT選手権、現在のスーパーGTの前身です。一時隆盛を極めたグループAレースに替わってホモロゲーションの要らない(?)高度改造車レースとして始まった同シリーズ、当初は格違いのスーパーカー、
マクラーレンF1
MLF1.png
(必要最小限ならぬ「不必要最大限」の車ⓒ沢村慎太郎)
 の独壇場でしたがその「引退」後は国産高性能車の闘いの場として人気を博していきます。現在のレギュレーションは相当厳格ですが当時の車両規則は結構緩く「何でもあり」の雰囲気がありました。というのも、あまり開発費をかけずに500馬力(!)のコンテンダーをとりあえずシリーズが成立する台数、集めなければならなかったからでしょう。
 少ないリソースでレーシングカーを仕立てるには「ありもの」の流用は欠かせません。N社は重く重心の上がる4WDは捨て去ったものの、アイデンティティたる大きな6気筒を踏襲してレースカーを仕立てました。
対するT社は同社高性能車の
T-S.png
看板S
 に販売主力の6気筒ではなくフォーミュラからルマンまで(!)レースでの幾多の実績ある4気筒を選択しました。そしてそれだけではなく、大容量ミッションと重量配分の問題を一気に解決すべくアメリカのレース
(≒ヒルクライム)向けの特製ベルハウジング(もちろんマグネシウム製)を用い、なんとグループCのミッションを後席下にマウント、トランスアクスル(のちのウェイトハンデ対象)としたのです。
 このCカーのミッション、本来ストレスメンバーとして使われていたものですからサスペンションピックアップを持ちます。結果として同車はCカーとほぼ同じRサスペンションを持つに至ったのでした。

 ある日自分のところにその!
trsxl.png
ミッションケース
 が持ち込まれました。T◎Dの担当者氏曰わく
「これは元WGPチャンピオンのドライブする車のミッションケース、
 次のレースに代替品が間に合わないので修理してくれ・・・」
 (↑ 意訳)とのこと。
 ・・・修理?見ればクラッチ側アッパーアームの付け根に、相当な肉厚が与えられているにもかかわらず、明確なクラックが!
 本来付くべき所に付くべきものが付いての「通常使用」です、壊れるほどのストレスは考えられません。本来丸一日(=24時間)レーシングスピードで走り続けられる耐久性を持つ車の部品、何より実績ある「商品」です。一品ものではないので鋳造不良は考えにくく・・・ではなぜ?
 それは・・・恐らく、車体重量でしょう。
 Cカー 
  はフルタンクでも1トン弱。対してウェイトハンデのあるJGTC車は場合によっては1.2トンオーバー!このミッションケースの、ストレスメンバーとしての設計荷重を大きく越えているのは間違いなく、度重なる過大なストレス(=ピックアップ部ゆえ引っ張り荷重)にケース自体が音を上げた、ということなのでしょう。
 さて溶接です。自分は一時期自社製品の溶接修正全てを一人で行っていたので、ひょっとして当時日本で最もマグネシウム溶接をこなしていた男だったかもしれません(笑)とはいうものの・・・
溶接の上手い鋳物屋ってのは
AJ.jpg
「化学調味料頼りの料理人」
 みたいなもので(笑)あまりほめられたものではないのですが・・・。

 技術的にはアルミとさほど変わりませんがマグネシウムの溶接、一般的には難しいとされています。TIG溶接
(=タングステン電極を用い、アルゴンガスで溶接部周囲を覆う電気溶接)ならチタンとかと同様、酸化の問題はクリア、その難しさは主にその軽さゆえの比熱の低さによるもの、となります。
 溶かした異種金属を毛細間現象によって流し込み固着させるロウ付けと違い、溶接するにはその部分の母材を溶かす必要があります。ところがアルミやマグネシウムといった軽金属は比熱が低く、溶かしたい部分に加えた熱が母材全体に逃げてしまい、そこが溶け出す前にワーク本体がチンチンに熱せられてしまうのです。結果全体が歪んでしまったり、溶接部周辺が溶け落ちてしまう(!)なんてことも起こります。
(だから!アルミボディの溶接板金は非常に難しいのです。余談でした・・・)
 また、クラック溶接は別の難しさがあります。
 ひび割れ部分に熱を加え、溶け出すとそのひび割れ(長さではなく間隔)は広がる、のはご理解頂けるでしょう。このひびを広げようとする力こそ
「応力」にほかなりません。それゆえひび割れの溶接は一見うまくいったように見えても、冷えて固まる時に再び・・・ピッ!と割れるのが普通です。正に鋳造の話にあった
「押し湯が効いていない」
状態なのです。
 そのため、固まるまでの「新しい」湯の供給源としてわざと瘤状に肉を盛ったり(=あとで削り取り、仕上げる)もしますがそこまでやっても、うまくいかないことは多いです。そう、マグネシウム鋳物のクラック溶接修理とはかくも難しく、常に完璧を目指すプロとしては・・・請け負いたくない仕事なのでした。
trsxl.png
 さて問題のミッションケースです。
 まずエアリューターを使いクラックを中心に「Vカット」します。
 溶接の際、ひび割れの先端が早く(=全体が熱せられる前に)溶けるように薄くし、そこから徐々に肉を盛り上げて行けるよう、母材を斜めに削り広げるのです。肉厚のある部分なので驚くほどの幅と深さになってしまいますが、地道に盛り上げていくしかありません。幸い「素直な」クラックで(笑)なんとかプロの面目を保つことができました。

 その翌週のJGTCレース、テレビ観戦です。
 問題の車は?というと・・・元チャンピオンライダーのドライブで上位を走行中、突然床下から一瞬だけオレンジ色の炎を吐いて(!)そのままリタイア、という衝撃の結末でした(画像お持ちの向きはご確認を・・・)。
 炎はすぐに消えたので燃えたのはガソリンではなくオイルでしょう。

 レース後に、壊れたパーツを、それも部外者に見せる、なんとことはありえないので憶測でしかありませんが恐らく・・・
 件のミッションケースが再び、より大きく割れたものと思ってます。
  直せなかったか・・・(?)


 国内で、特殊な設備と技術が必要な「マグネシウム砂型鋳造」(≒手造り)をやっている工場、実は数えるほどしかありません。しかも各自動車メーカーの「内製」も数のうち、です。それゆえ社内で間に合わない分の外注先も限られます。
 ということで、メーカーの息のかかっていない「ニュートラルな」工場には
2輪を含め、各メーカーから注文が来ます。自分の居た工場もそうです。
 冬の、レースのオフシーズンは前述N社はもちろん、H社のものまで(!)正に「呉越同舟」で造っていたのでした。
 メーカー関係者来訪時には他社向け製品を隠す(!)なんてことも・・・(笑)
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  1. 2014/03/15(土) 21:11:38|
  2. Magnesium&Race
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