オイルパンの話

 2週「お休み」したマグネシウムの話、再開しましょう。

 前回GT選手権について取り上げ、呉越同舟
(実は誤用。ホントはそこに協力がなければそうは云わない・・・)
と表現した、自分の工場で作られる各陣営のパーツの数々。中でも、GTに限らず2輪を含め各車それぞれその狙いや思惑が端的に形状に現れるエンジンパーツ、
オイルパン

(これはいかにもイタリア的なFIAT124用大容量アルミ製ウェットサンプ)
 
 についてお話しましょう。

 まずGTマシンに巨大な6気筒を積むN社。
 RB26.png
(下端、薄べったい褐色の部品がそれです)
 運動性能のためにはできるだけ低く積みたい、ということでオイルパンは非常に(上下に)薄いものの図面が上がってきました。
 それを木型屋さんにまわし共に鋳造法案を決め、出来上がった木型で
砂型を「抜き」その製品を「吹く」のが鋳物屋の仕事です。しかしそれでは「素材」どまり。素材納品は稀で、普通はその後の機械加工や表面処理まで手配、管理し完成品として納品します。

 ドライサンプのオイルパンはオイル回収のための受け皿です。いかに効率よく「吸い取る」かが問われますが、その時撹拌抵抗を発生させないため、通路でつながった2重構造
DS_201404052036151db.png 
(クランクウェブ側と回収部を仕切る)
 になっています。そして鋳造の際その2重構造は「中子」と呼ばれる砂型を浮かせて空洞部分を作り出し実現するのですが、その分デリケートな作業になります。
 そして同車は毎年エンジン搭載位置を下げるアップデイトを敢行、それは毎年ミリ単位ですがオイルパンが薄くなることを意味します。かくして非常に凝った構造の、作りにくい巨大な「蓋付き製氷皿」
sara.png
(これが一体化してると思って下さい)
 のような鋳物ができあがったのでした。
 この「作りにくさ」とは「歩留まりが悪い」即ち失敗が多い、ということです。構造上真ん中に「上がり」を立てるわけにはいかずそれゆえ湯に「力がなく」
真横に薄く流れるうちに冷め力尽きてしまうのです。鋳物の真ん中に湯の届いていない大穴(!)が開いてしまうこともありました。

 続いてT社。選手権が白熱してくるにつれ開発競争も激化します。それを抑えるためレギュレーションの締め付けも厳しくなります。ある年は空力開発抑制のため
フラットボトム
surotto.png
(これはスロットカー・・・)
 が義務付けられました。T陣営はそれを逆手に取り、オイルパン最下部に完全フラット部分を追加し(一部3重構造)エンジン搭載位置も下げフロアを貫通させました。つまりフラットボトムの一部をオイルパンに肩代わりさせたのです。ついでにオイルパンの厚みを利用しエアを後方へ抜くチャンネルもサイドに設けフロントのダウンフォースも稼ぎ出します。そう、オイルパンのエアロパーツ化でした。これはT陣営、一石三鳥の秘策だったのですが、皮肉なことにそのデビューレース(=開幕戦)で1台が接触だったかコースアウト。しかも、こともあろうに腹を見せて転覆!秘密兵器エアロオイルパンは初日にして白日の元にさらされたのでありました。

 F3のオイルパンをマグネシウムではなくアルミで吹いたことがあります。
ARF3.png 
(これはよく似てますが別もの、アルファ・・・)
 普通レーシングパーツは肉は薄く、あらゆる部分の無駄を廃した軽量設計が基本ですがそのオイルパン、ブロック下左右に張り出し、駄肉はついているは本来中空のところが埋まっているは、わざと重くしているとしか思えない、持ち上げる時
「くっ」
と声が出るような謎の代物でした。訊けば「バラスト」とのこと。F3マシン
(ダラーラでしょう)は軽量化が進み既に最低重量を下回っておりバラストを積む必要があったのですが、

 床に錘を貼るぐらいならオイルパンを重くしてしまおう

 という意図なのでした。
 フォーミュラは、F1がナロートレッドになってしばらくするまでは、さほど
前輪荷重は与えないのが普通だったのでオイルパンバラストでよかったのでしょう。しかし、これがエスカレートして (?)
「・・・今度は鉄で・・・」
というオーダーもありました。ズク(=鉄の意)の設備はないので木型を送っての外注でした。できあがってきたそれは、それこそ持ち上がらないくらい、重量挙げのバーベルを連想させるような物体でした。

 F3オイルパン、軽量化と低重心化はレーシングカーの基本、と改めて認識させられた鋳物でした。

モーターサイクルの場合は
MCOP.png 
 同じレース用オイルパン
 でもだいぶ設計要件が違うのですが、長くなったので・・・
to be continued.
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  1. 2014/04/05(土) 20:16:56|
  2. Magnesium&Race
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