あるF3コンストラクターの記録

XOR - コピー 
(真ん中にあるエアボックスに注目!)
 ある日、自分の工場に木型屋さんを伴いいかにもベンチャーっぽい雰囲気の(笑)青年が現れました。巨大なベルハウジングの木型を携えて、です。漏れ聞こえてくる工場長との会話
「・・・全く新しい、オリジナルの(!)F3用のパーツ・・・」
それを聞いて自分
「F3?オリジナル車であのダラーラと勝負しようってえの?!」
特にワンメイク・ルールがある訳でもないのに、結果として世界中のF3シリーズを席巻、独占、事実上ワンメイク化してしまったのが
 ダラーラ
 です。製品としての品質と安定性、コストパフォーマンス、何よりその高性能は証明されていると言っていいでしょう。世界中の、プロのレース屋が認めるその名機に真っ向勝負を挑もう、というのです。生半可な覚悟と技術では同じ土俵にすら立てない(=予選不通過)でしょう。
 国内外で、溢れる情熱とアイデアを武器に鼻息荒く乗り込んできたものの、勝負すらさせて貰えず、失意と共に去っていったコンストラクターには枚挙に暇ありません。
7408.png  maki.png
 その「退場者リスト」の一頁に、ついに自分も関係者として名を連ねることになるのか・・・とその時は思いました。

 まずその木型を観察しましょう。
 予算の関係でしょう、上型下型に分かれていない(=型が一つで済む)
鋳物と同じ形をした

 原型(げんがた)

 です。ここで鋳造について。
 鋳物の外側(=外観)が底板に貼り付いているかたちで凸面を成している型(=プレート型)を下型、鋳物の内面が底板から下方に凹面を成しているのが上型です。
 原型から砂型を抜く場合は・・・まずそれを完全に覆うことができ、かつ分割できる木枠を用意し、木枠の底板に原型を固定、下型とします。
 上型は・・・結構慎重な作業が要求されます。
 底板をもう1枚用意し、下型と完全に同じ位置(実際には反転させた位置)に原型を置き、その外形を罫書き、それに沿って穴を開け、底板に原型が隙間なく嵌り込んだ(=原型端面と底板上面が面一)木型内面が上方へ開いている状態に固定、ここまでやってようやく上型として使えるようになります。
 この時、底板を基準とした上型と下型の位置決めがいいかげんだと、鋳物の肉厚の不均衡(あるいは湯まわり不良=穴開き)が起こってしまうのはお分かり頂けるでしょうか?

 鋳物とは上型と下型との間の空間に溶湯が流れ込み、それが冷え凝固したものです。

 上型と下型がズレていれば(=端組み、はぐむと言います)片側の肉は厚く、反対側はその分だけ薄くなる、という訳です。木枠を外した砂型、上型と下型の四隅を合わせると正しい肉厚が出るようにするには厳密な位置決めが要ることがご理解頂けたでしょうか。

 プレート型を設えて貰えば位置決めは木型屋さんの仕事、鋳物屋は楽でいいのですが・・・型を2つ作ることになるので当然コストがかかってしまうのです。
 オリジナル車を作ろうとなれば各部品、量産効果の望めないワンオフ製作の嵐でしょう。バジェットはかけようと思えば幾らだってかけられるはずです。コスト管理にやり過ぎはないでしょう。木型のコストを押さえ、そのために落ちる製品精度の確保は職人の腕に頼る・・・正しい選択だと思います。
 そして木型屋さんが同行してきた理由は、紹介の意味もあったかと思いますが、鋳造法案の打ち合わせでした。通常の受注と違い、我々は図面を見ていないので肉厚等を採寸、チェックしなければならないところですが、それらを(制作者ゆえ即答できる)木型屋さんに訊きながら法案を練ります。これがプレート型であれば法案も木型に盛り込まれているところなのですが・・・ないものねだりしても仕方ありません。そして法案を決める上で、その鋳物の形状は、なかなかの難物でした。
 薄く深い(上下に高い)斜面の中腹にボス(ネジ穴加工部分=肉が厚い)があり、いかにもそこに焼け(=スポンジ状の鋳造不良)が発生しそうです。
 湯が冷めていく時、収縮していく分だけ熱い湯を供給し続けられないと、鋳物内部で湯の取り合いが起きてしまい、密度の低い部品、凹みや「巣」ができてしまうのは マグネシウムの話:その2 稿の通りです。

 ここで解説。ベルハウジングとは?
bh2.png
 (その典型的形状。これはストリートカー用ゆえセンター揃え)
 ズバリ、エンジンとミッションを締結するスペーサーのようなものです。中には、文字通り双方を「繋ぐもの」としてクラッチが入ります。
 エンジンのシリンダーブロック下方、いわゆる「腰下」、二輪エンジンならクランクケースに相当する部分はおおまかに言って円筒形(その径はクラッチのサイズ)です。一方のミッションもまた概ね円筒形と言えるでしょう。ただし径はずっと細いです。径の違う円筒形をただ結びつけるだけなら、形状的には単純な円錐形
コーン こーん 
(コーン)
 の裾部分でこと足りるのですが、実際には低重心化のため同心ではなく下寄せ、中のクラッチのストローク分、コーン部分は膨らませねばならず・・・と結構複雑な曲面を持ち、「教会の鐘」を思わせるその形状から「ベル」ハウジングと呼ばれるのでした。
 ところがこの木型、よく見ればミッション側(細い方)が収束していません。上下には潰れていますが左右方向には絞れていません。
またエンジンの前側のような
ツインターボ
あるいは古いドゥカティGPレーサーのような
125GP.png
 ギアケースらしき塊(=加工代)が設えてあり、
 開口してもいません。これは一体・・・?そのベンチャー氏に伺うと
「色々なメリットがあるので、エンジンを傾けようと・・・」
驚きました。知ってか知らずか・・・
G・マーレイ
Brabham.jpg
みたいじゃないですか!
 車体前面図を見せてもらうと・・・あの巨大な、F3のインダクション・ポッドが真ん中に!ドライバーの頭上に鎮座しています。空力的メリットは計り知れません。氏曰わく「もちろん低重心化も!」
XOR - コピー (2)
(左へ傾いた3S-Gヘッド、真上へ向かうインテーク、判りますか?)
 重ねて聞けば成田の工房にはカーボンモノコックを焼けるオーブン
(オートクレーブ)までなんと自前で(!)用意してある、とのこと。
「こりゃあひょっとして・・・大化けするかも・・・?!」
既に鋳物の注文を頂いたクライアントです。その活躍を願うのは納品業者として当然のこと。
 快走を期待しつつ鋳造準備に入ります。
 to be continued.

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  1. 2014/08/10(日) 17:31:06|
  2. Magnesium&Race
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